中国の債務問題の本当の問題

2016年11月9日

金田 修

前回はシェアエコノミーを中心とした「やってみなはれ」的起業家精神についてお話をさせていただきましたが、第5回はそんな中国が抱える闇のお話をしたいと思います。

今年9月にBIS(国際決済銀行)が、先月にはIMFが中国の債務問題について警鐘を鳴らしました。僕はマクロの専門家ではありませんが、真の問題は何か、自分のビジネスにどういう意味があるのか、シンガポール人の友人、APS(ヘッジファンド)のストラテジストでもあるWy-en Yipの力も借りながら整理してみました。

まず、BISは9月に、金融システム危機の警戒指標の一つ、民間債務のGDPに対する比率のトレンドに対するギャップが、中国では30%に達しているとして警告しました。この数値は10%を超えると警戒水域であり、日本のバブル崩壊前のピークが23.7%、1997年にタイが金融危機に陥った時が35.7%でした。 同じ分析で現在13%を超える国・地域はなかったことから、中国が突出して危険水域にいると言えそうです。先月のIMFの報告(Working Paper)は、民間債務のGDPに対する比率が中国で200%を超え、その急激さと絶対水準において、2012年の欧州危機のトリガー地点でのスペインとバブル崩壊地点での日本を超えた、というものです。こちらも過去事例の経験則から、非常に危険な水域に達していると分析しています。

過剰債務の問題は、トリガーイベントが起こった後に様々な形で長期の不況を引き起こします。日本では不良債権問題から信用収縮、ひいては「失われた20年」に繋がり、タイでは通貨暴落、スペインではEUに資金支援を頼った結果、監督下に置かれ金融機関の整理と財政規律の強化を迫られ、いずれの国でも深刻な経済不況を引き起こしました。

現在中国では家計の債務は同水準の発展途上国、中進国と同レベルの水準でコントロールされているので、本質的なこの問題の解決策としては、異常に膨れ上がった企業債務の効率を上げる、つまり資本と労働の生産性を上げる構造改革に取り組むしかありません。問題は、中国にはまだ余力がかなりあるということです。中国政府は「GDPはフローで、債務はストックだから、水準自体を話しても意味が無い」というような説明をしていますが、債務の平均利子率が5%だとしても、GDPが毎年10%成長しなければ追加的な価値で債務を払えないわけで、フロー同士の計算に置き換えられる話です。それが言い訳に過ぎないことは当局もよく分かっていると思います。

しかしながら、痛みの伴う改革をしなくても、外貨準備の水準、資本規制による資本逃避に対するコントロール力、また日本を筆頭に緩和競争中の他国に比べれば4.35%と高い基準の中銀貸出利子率、そしてデフレするPPIを見れば金融政策の余地はまだまだ広く残されています。加えて中国の税収は、景気変動の少ない間接税が中心で安定成長しており、財政赤字は既にこの1年半顕著に増加しつつありますが、それでもGDP比率の3%にとどまる形で設計されています。従って財政出動の余地は実質財政破綻している日本は例外としてもドイツを除く主要先進国よりは余力があると考えられます。

ちなみにIMFの同報告でも最後にGDP成長のシナリオアナリシスがありますが、課題放置したケースであっても2021年におけるGDP成長率予測が3.5~5.5%と日本からみたら眩しすぎる数字です。

つまり、日本のマスコミの多くが喧伝するように「積み上がっていく中国の債務問題は大問題であり、いずれ破綻する」という話は長期的視点では正しく、中国側で主張されている「債務問題は対処可能、恐るに足らず」という話は中期的に正しい、ということが最大の問題だと思います。現時点で既に日本のバブル、スペインのユーロ危機のトリガー並の債務水準に達しているのにもかかわらず、あとどれだけ上昇してから破綻するかが全く予想できない、つまりどれだけの混乱が起こるか予想すら出来ないということが最大の危機なのだと僕は思います。

中国での自分の事業にとっての意味合いですが、理論にはそぐわないかもしれませんが、「1.出来る限り借り入れに頼らない財務戦略を組むこと、2.奢侈品ではなく、日々の生活の向上に資する事業に取り組むこと」が、危機がいつか来ることを想定しながらも現在の成長と高揚の波に乗り遅れないためのポイントだと整理しました。